村川拓也『ムーンライト』
演劇
2018年12月15日[土] 18:00開演、16日[日] 15:00開演 ※開場は開演30分前を予定
会場|京都市西文化会館ウエスティ ホール
ホールに鳴り響く、ピアノの音。
そこから漏れ出る、記憶と現在。

1人のキャストとその日の観客から1人を舞台上に招き、介護する/されることを舞台上に再現した『ツァイトゲーバー』、事前に村川から送られてきた手紙(指示書)に沿って舞台上の出演者が動く『エヴェレットゴーストラインズ』など、ドキュメンタリーの手法を用いながら表現の前提を揺さぶり、同時に生のリアルを追求する村川拓也。今回村川がリサーチの過程で注目したのは、文化会館で数多く開催される「ピアノ発表会」。そこに耳を澄まし目を凝らした先に聴こえてくる小さな物語。人生と音楽が交わる「劇場」で、わたしたちが目撃するものとは。

構成・演出|村川拓也 
ドラマトゥルク|林立騎 

出演|
12月15日|梶原香織、木村綾香、木田優月、向朱理、中島昭夫
12月16日|笠原裕子、馬渕彩菜、柴田瑞稀、片倉沙野子、中島昭夫

舞台監督|浜村修司
照明|葭田野浩介(RYU)
音響|小早川保隆
制作|清水翼
演出補佐|長澤慶太
地域ドラマトゥルク|杉本奈月、田中愛美
助成|公益財団法人セゾン文化財団

演出ノート

はじめて西文化会館に行ったのは今年の4月で、まずはその地域に住んでいる人たちがこの会館でどのような催しをやっているのか見学させてもらうことからはじまりました。最初に見学したのは、地域のピアノ教室が主催しているピアノの発表会でした。また別の日に西文化会館に行ったのですが、これがまたピアノの発表会でした。実は、その次に行った日も、その次に行った日もたまたまピアノの発表会で、結局立て続けにピアノの発表会を4回見ることになりました。4回目を見終わった後、もうその頃にはピアノの発表会を題材にしようと決めていました。

それからいつくかのピアノ教室にお邪魔して出演者を探しはじめました。一見、普通のピアノ発表会に見えるけど、少し違和感を感じるような作品を構想していたのです。しばらくして、偶然ある人に出会いました。その人は70代中盤の男性で、ベートーヴェンの「月光」をずっと弾き続けていると言いました。この男性が今回の作品の出演者となるのですが、いま彼の家にお邪魔していろいろな話を聞いているところです。家には娘さんのために買った茶色のアップライトピアノがあって、ときどき「月光」を弾いて聞かせてくれます。とくに防音設備などはないのですが、近隣住民から苦情が来たことはないようで、でもいちおう窓は閉めるし、夜の9時以降は弾かないと言っていました。あれから、ピアノの発表会をそのまま再現するという構想から少しずつズレが出てきていて、どういう風にズレたのかは本番にならないとわからないですが、彼に引っ張られるようにして元々の構想から少しずつ離れつつ、でも発表会という形式は残るだろうなあとか思いつつ、今は彼の家でとにかく話を聞いています。時々、グラッパというアルコールの強い酒を彼は用意してくれます。

村川拓也

村川拓也|演出家。1982 年滋賀生まれ。京都市在住。ドキュメンタリーやフィールドワークの手法を用いた作品を、映像・演劇・美術など様々な分野で発表し、国内外の芸術祭、劇場より招聘を受ける。1人のキャストとその日の観客1人を舞台上に招き、介護する/されることを舞台上に再現する『ツァイトゲーバー』(2011年)、村川から事前に送られてきた手紙(指示書)に沿って舞台上の出演者が動く『エヴェレットゴーストラインズ』(2013年)などの作品群は、虚構と現実の境界の狭間で表現の方法論を問い直し、現実世界での生のリアリティとは何かを模索する。

林立騎|翻訳者、演劇研究者。訳書にイェリネク『光のない。』(白水社)、共編著に『Die Evakuierung des Theaters』(Berlin Alexander Verlag)。リサーチ活動にPort B『東京ヘテロトピア』など。2012-14年、アーツカウンシル東京調査員(伝統芸能分野)。現在、京都造形芸術大学非常勤講師、沖縄県文化振興会チーフプログラムオフィサー、NPO法人芸術公社ディレクターズコレクティブ。ロームシアター京都リサーチプログラムリサーチャー。